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(2) 湯○゙~○゙さんを捜せ(仮題)

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落ちこぼれ要人保護課員シリーズ「赤いコート姿の女性」編

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◆2003年11月22日AM6:30◆能登地区病院

『恵子!!』
呼び声と同時に駐車場に崩れ落ちたように座った赤いコートの女性の元に駆け寄りながらも
「多田清吾」は娘と違うことが分っていた。「シロ」が傍らに佇み匂いを嗅ぐ仕種が横目で見えた。

能登地区病院の内科医「奥村幸雄」は当直明けから日勤医に引継ぐ時間も迫った頃
時間外患者の来院を時間外受付の職員から呼び出しを受けて

当直室から出て朝日が窓口から射し込む渡り廊下を歩きながら、この時季としては珍しく
穏やかな天候になると思った。既に院内の清掃を行う職員や売店に荷物を運び入れる
姿を見て活気が戻りつつある院内を通り別館の時間外診察室に入った。

職業柄から困った表情を顔に現わさない看護師達だが眼の前に立ってカルテを差し出す
「小杉真理子」の顔には明らかに困惑の表情が読み取れた。

内科医「奥村幸雄」は差し出されたカルテの患者名が空白なのに気づいて
『年齢欄もか・・・。 保証人は大丈夫なの』
数年前なら吐けないセリフだった。

県都の大学病院で医局勤めをしながら市内の大手企業診療所へ非常勤医師として勤務し
薄給だが何とか口糊を凌ぐこと幾年も経過し教授から能登地区病院へ代わりの派遣医を勧められ
たのはステップアップとして快く引き受けていた。

場所柄か「ヤセの断崖」から日本海に飛び込んだと思われる水死体を監察医の助手として
身元不詳者の司法解剖に立ち会った事も幾度か経験していた。

さらに幸いにも命を取り留めた患者へ励ましたことも。

今朝も身元不詳の患者が救急車で運び込まれてきたが体温は高めで体に抵抗力を増す点滴を施し
様子を見ることを看護師に指示し事務長の出勤を待って診療費について協議をすることにした。

時間外診察室の待合室に座っていた初老の男性は多田と名乗り尋ねてきた。
『先生、体の塩梅は・・』

『すこし熱があるようですが若いですから大丈夫、回復しますよ』
内科医「奥村幸雄」は事務長から強く念押しされている事項を確認する意味で聞いた。

『患者さんとは面識がないとのことですが』
内科医「奥村幸雄」は朴訥な能登人を漂わせる多田に尋ねた。

『ほうや、今朝、散歩していたら・・さっき、看護婦さんに言ったとおりや』
『そうですか、申し訳ありませんが診療費について事務長と協議しますので

今般の経緯について話して頂きたいので、そちらの応接室で待って頂けますか』
『ほうか、分かったよ』
これも何かの縁やと「清吾」は思い医師の指し示す方向に見える応接室に待つことにした。

内科医「奥村幸雄」は多田の後姿を見送り、まだ意識の醒めない患者の様子が気になり
時間外診察室に戻ることにした。

時間外診察室のベッドに屈む看護師「小杉真理子」は「奥村幸雄」に気付くと
『先生、患者さんの意識が回復しましたが・・・』

「奥村幸雄」は看護師とベッドを挟んで患者に声をかけた。
『具合は如何ですか』

顔面が薄っすらと赤みがかり発熱で体温が高めと見て取れる患者の口から
『ワタシ、ワ、ダレ・・・』

患者の視線を受けた「奥村幸雄」は看護師「小杉真理子」とも視線が合った。

まだ暖房が入っていないのか冷え冷えとした応接セットのソファーに座ると
目線は自ずと壁に貼られた魚拓が「小振りの石鯛」なのに

これ見よがしに飾られているのが病院事務長「塩谷一夫」らしいと「清吾」は思った。
待つほど程なくノックがあり医師に続いて、「塩谷一夫」が後から入って来た。

『よお~多田さん、ご無沙汰。えらいベッピンさんを紹介してもらい、ありがとうな』
これからまだまだ寒くなると言うのに赤茶けた顔と節々の太い手には扇子が握られ

汗ばむ顔面を扇ぎながら内科医「奥村幸雄」へも声をかけた。

『ほな、先生、保険証も無い身元不詳者として役場の社会福祉課に診療費給付申請しますよ。』
尋ねられた内科医「奥村幸雄」は頷いた。

『身元不詳者・・・』思わず「清吾」は声を発した。
『そうや』と憮然とした顔で「塩谷一夫」は視線を医師に向けた。

内科医「奥村幸雄」は事前に病院事務長に診断結果を打ち明けていた。
『多田さん 患者さんは自分の氏名が分からないようです
所謂、記憶喪失には数日で思い出す一過性健忘もありますし』

驚いた「清吾」は『先生、記憶喪失の原因ってなんやろ』

『基本的には三パターンで、物理的ショックや逃避として自分を封じ込める、
また他人から記憶操作を受ける』

内科医「奥村幸雄」は専門外だが知識として述べていた。

『心配せんといいよ幸いベッドも空いたしな』
病院事務長は行旅病人及行旅死亡人取扱法により診療費の目途もたち

壁に貼られた魚拓に目を細めながら
『それでな、治療の方は様子を見ることにしてな 問題は・・・身元不詳や』

「清吾」は頷き病院事務長の続きを待った。
『多田さんも知っている「高田外冶」に連絡せんとな
それでな、ベッピンさんの身持ちも心配で保証人は誰が良いかな・・・』

と相変わらず顔面を扇ぎながら思いを巡らしている様だった。

後を託した「清吾」は時間外診察室に顔を出し 26年前の同時季に赤いコートを羽織り
忽然と姿を消した娘を今か今かと帰りを待ち侘びていた「清吾」にとって

早朝に遭遇した女性が「恵子」であったらとベッドに横たわり点滴を受ける
妙齢の女性の安らいだ様な寝顔を見つめていると一瞬、口元が微笑んだように見えたが
そっと見守り「記憶がないのか」と心の中で呟いていた。

--つづく--

★フィクションであり、実在の人物組織とは一切関係ありません。

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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KIYO♂

Author:KIYO♂
旅 乗り物 株主優待 創作小説  愛犬 ポメ吉 20210714 14歳の誕生日を迎えることなく旅立ってしまう◆20160607未だに冬眠のため不定期活動。

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