(1) 湯○゙~○゙さんを捜せ(仮題)

*一部加筆修正し画像差替えて(13)まで再掲しています(記事連作のため上から下へスクロールとなります)

落ちこぼれ要人保護課員シリーズ「赤いコート姿の女性」編

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◆2003年11月22日AM6:00◆巌門

能登金剛国定公園を代表する景勝地・巌門は海食崖がよく発達して
いる。松本清張「ゼロの焦点」が刊行されてから断崖絶壁を訪れる

観光客は増えたが昔から住む「多田清吾」は愛犬「シロ」と、まだ
日の出前の暗い坂道を「レストラン巌門」までの散歩を決まった時間
、積雪の1月,2月を除き日課としていた。

日本海から吹き荒ぶ風は夏場は気持ち良く感じるが今日は霙交じりの
横風で「シロ」を繋ぐ綱におのずと力を入れ一歩一歩確かな足取りで

注意して坂道を下る。冬場は車両の通行も疎らになり今も目線の先、
「レストラン巌門」から来る車のヘッドライトの灯りも見えなかった

『シロ、休憩しようか』
先へ先へと進む「シロ」に声を掛けた。

老妻に先立たれてからは既に2代目「シロ」である。
共に老いたる者としての連帯感と愛情を「シロ」に注ぐ「多田清吾」であった。

「レストラン巌門」駐車場で休憩して来た道を戻る「多田清吾」に
とって、夏場は長めにベンチに座って道路を通過する車やバイク、

まれに野宿する若者を眺めるのが人恋しくなる時の慰めであったが

今日は「シロ」に声を掛けて戻ろうとした時、焼きイカの店舗の陰に
佇む赤っぽいコートを着た女性と視線が合った気がして思わず声を発した。

-つづく-

★フィクションであり、実在の人物組織とは一切関係ありません。
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落ちこぼれ要人保護課員シリーズ「赤いコート姿の女性」編

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◆2003年11月22日AM6:30◆能登地区病院

『恵子!!』
呼び声と同時に駐車場に崩れ落ちたように座った赤いコートの女性の元に駆け寄りながらも
「多田清吾」は娘と違うことが分っていた。「シロ」が傍らに佇み匂いを嗅ぐ仕種が横目で見えた。

能登地区病院の内科医「奥村幸雄」は当直明けから日勤医に引継ぐ時間も迫った頃
時間外患者の来院を時間外受付の職員から呼び出しを受けて

当直室から出て朝日が窓口から射し込む渡り廊下を歩きながら、この時季としては珍しく
穏やかな天候になると思った。既に院内の清掃を行う職員や売店に荷物を運び入れる
姿を見て活気が戻りつつある院内を通り別館の時間外診察室に入った。

職業柄から困った表情を顔に現わさない看護師達だが眼の前に立ってカルテを差し出す
「小杉真理子」の顔には明らかに困惑の表情が読み取れた。

内科医「奥村幸雄」は差し出されたカルテの患者名が空白なのに気づいて
『年齢欄もか・・・。 保証人は大丈夫なの』
数年前なら吐けないセリフだった。

県都の大学病院で医局勤めをしながら市内の大手企業診療所へ非常勤医師として勤務し
薄給だが何とか口糊を凌ぐこと幾年も経過し教授から能登地区病院へ代わりの派遣医を勧められ
たのはステップアップとして快く引き受けていた。

場所柄か「ヤセの断崖」から日本海に飛び込んだと思われる水死体を監察医の助手として
身元不詳者の司法解剖に立ち会った事も幾度か経験していた。

さらに幸いにも命を取り留めた患者へ励ましたことも。

今朝も身元不詳の患者が救急車で運び込まれてきたが体温は高めで体に抵抗力を増す点滴を施し
様子を見ることを看護師に指示し事務長の出勤を待って診療費について協議をすることにした。

時間外診察室の待合室に座っていた初老の男性は多田と名乗り尋ねてきた。
『先生、体の塩梅は・・』

『すこし熱があるようですが若いですから大丈夫、回復しますよ』
内科医「奥村幸雄」は事務長から強く念押しされている事項を確認する意味で聞いた。

『患者さんとは面識がないとのことですが』
内科医「奥村幸雄」は朴訥な能登人を漂わせる多田に尋ねた。

『ほうや、今朝、散歩していたら・・さっき、看護婦さんに言ったとおりや』
『そうですか、申し訳ありませんが診療費について事務長と協議しますので

今般の経緯について話して頂きたいので、そちらの応接室で待って頂けますか』
『ほうか、分かったよ』
これも何かの縁やと「清吾」は思い医師の指し示す方向に見える応接室に待つことにした。

内科医「奥村幸雄」は多田の後姿を見送り、まだ意識の醒めない患者の様子が気になり
時間外診察室に戻ることにした。

時間外診察室のベッドに屈む看護師「小杉真理子」は「奥村幸雄」に気付くと
『先生、患者さんの意識が回復しましたが・・・』

「奥村幸雄」は看護師とベッドを挟んで患者に声をかけた。
『具合は如何ですか』

顔面が薄っすらと赤みがかり発熱で体温が高めと見て取れる患者の口から
『ワタシ、ワ、ダレ・・・』

患者の視線を受けた「奥村幸雄」は看護師「小杉真理子」とも視線が合った。

まだ暖房が入っていないのか冷え冷えとした応接セットのソファーに座ると
目線は自ずと壁に貼られた魚拓が「小振りの石鯛」なのに

これ見よがしに飾られているのが病院事務長「塩谷一夫」らしいと「清吾」は思った。
待つほど程なくノックがあり医師に続いて、「塩谷一夫」が後から入って来た。

『よお~多田さん、ご無沙汰。えらいベッピンさんを紹介してもらい、ありがとうな』
これからまだまだ寒くなると言うのに赤茶けた顔と節々の太い手には扇子が握られ

汗ばむ顔面を扇ぎながら内科医「奥村幸雄」へも声をかけた。

『ほな、先生、保険証も無い身元不詳者として役場の社会福祉課に診療費給付申請しますよ。』
尋ねられた内科医「奥村幸雄」は頷いた。

『身元不詳者・・・』思わず「清吾」は声を発した。
『そうや』と憮然とした顔で「塩谷一夫」は視線を医師に向けた。

内科医「奥村幸雄」は事前に病院事務長に診断結果を打ち明けていた。
『多田さん 患者さんは自分の氏名が分からないようです
所謂、記憶喪失には数日で思い出す一過性健忘もありますし』

驚いた「清吾」は『先生、記憶喪失の原因ってなんやろ』

『基本的には三パターンで、物理的ショックや逃避として自分を封じ込める、
また他人から記憶操作を受ける』

内科医「奥村幸雄」は専門外だが知識として述べていた。

『心配せんといいよ幸いベッドも空いたしな』
病院事務長は行旅病人及行旅死亡人取扱法により診療費の目途もたち

壁に貼られた魚拓に目を細めながら
『それでな、治療の方は様子を見ることにしてな 問題は・・・身元不詳や』

「清吾」は頷き病院事務長の続きを待った。
『多田さんも知っている「高田外冶」に連絡せんとな
それでな、ベッピンさんの身持ちも心配で保証人は誰が良いかな・・・』

と相変わらず顔面を扇ぎながら思いを巡らしている様だった。

後を託した「清吾」は時間外診察室に顔を出し 26年前の同時季に赤いコートを羽織り
忽然と姿を消した娘を今か今かと帰りを待ち侘びていた「清吾」にとって

早朝に遭遇した女性が「恵子」であったらとベッドに横たわり点滴を受ける
妙齢の女性の安らいだ様な寝顔を見つめていると一瞬、口元が微笑んだように見えたが
そっと見守り「記憶がないのか」と心の中で呟いていた。

--つづく--

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◆2003年11月22日AM6:35◆東京・霞ヶ関

内閣官房庁舎内の内閣情報室の出先として合同庁舎12階にある
内閣情報室分析課の室内の明かりは消えることなく24時間の
即応体制をとっている。

当直責任者である「愛原聡」参事官にとっては気が重い足取りで
皇居から見える日の出を迎えるため窓に進んだ。

警察庁出向組であるキャリア警察官にとって内閣情報室は更に
将来の地位を約束されたポストでもある。おのずと政財界の重鎮

と言われるお歴々の情報も集まるポストでもあって使い方によっては
諸刃の剣にもなる生きた情報であった。

「愛原聡」にとって順風満帆に今の地位にあった訳ではなく、
キャリア警察官ならではの人脈にも翻弄された。与党・民自党が

下野した時、政権を奪取した改進党からは官庁にポストオフの
要求が出され三大官庁と自負する警察庁にとっても時の長官を始めに
複数の幹部が退任させられたのであった。年次を重んずる官吏に

とっては入庁年次順が相手を計るものでもあって逆転のポスト配置は
絶対阻止するものであった。そんな慣行を知ってか知らずか、

「クリーンアップ日本」を公約して国民の支持を集めて政権についた
改進党政府は手始めに官庁のクリーンアップと称して年次を無視した

ポスト配分を行い渋る官吏には解任権行使を匂わせ従わせたので
あった。政権党側のブレーンも官庁に送り込まれていた。

庁内が混乱して職務にも支障が出てくるのを感じた「愛原聡」に
とって頼る綱は郷土の先輩として父親同士も親交のあった民自党
代議士に頼ったことはいたしかたなかったと今でも思っていた。

そんな思いのなか窓からは雨雲の切れ目から陽が射し始めて
外堀通りをジョギングする姿を視線で追い、
一息ついて「愛原聡」は昨晩、代議士秘書から

掛かって来た電話の内容を反芻してから机の専用電話器に配置
された各都道府県警察本部長宛ての直通回線に繋がるボタンを
震える心を抑え慎重に指先を選択してボタンを押した。

壁掛け時計の短針が7時を指していたが長針は霞んで見えなかった。

-つづく-

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◆2003年11月22日AM7:55◆金沢・丸の内 南分室

『えぇ~誰だって~』
10畳ほどの広さの剥き出しのコンクリート壁の室内に反響されて
更に大きな声に聞えて思わず「田所真一」は顔をしかめ

『先輩!! 声がでかいっすよ!!』

先輩と呼ばれた「渡辺達司」は受話器を握ったまま咥えタバコの灰を
乱雑に積まれた書類に隠れそうな灰皿に落そうとしているのを見た

「田所真一」は更に顔をしかめながら成り行きを見守った。

『課長!!いいですか心して聞いて下さいよ!!』
上手くタバコの灰が落ちて気を良くしたのかと思い「田所真一」は

明るく饒舌になって話す「渡辺達司」を安堵の目で眺めた。
『先輩!!その調子で』

二人は県警察本部長直轄の要人保護課で二人しかいない相棒であった。
表向きには警備部警備課に属しているが市内鞍月に移転した本部詰

ではなく移転前から旧県庁舎になった兼六園から近い丸の内南分室内に
居を構えていた。

『指揮命令は警備課長ではなく、本部長なのは御存知でしょう
なぜ、お国入りする郷土の星、松井君の警備から外れるのですか』

なるほど剥きになって声を昂ぶらせる訳が分かったと「田所真一」は

男所帯で乱雑になった炊事場にホットコーヒーを入れるために向った
先輩「渡辺達司」のホットコーヒーを作るためではなく自分のために。

炊事場からでも「渡辺達司」の声は聞えていた。

『何だって!!直々に内閣情報室からの要請だって 本当かよ!!』
壁に耳あり障子に目ありだが平和国家、日本にあって危機管理の
重要性が先の政権から叫ばれていたが現実感に乏しいと「渡辺達司」は思っていた。

電話での叫び声と裏腹に冷静な思いが頭の中で蓄積されて行く。
『で、どうすれば良いんですか課長殿!!』

「田所真一」は自分専用のカップにホットコーヒーを入れて室内に
戻って来ると「渡辺達司」が受話器を置いていた。

『真一君!! 郷土の星、松井君の警備から外れたぞ~』

と終わりの言葉は弱弱しく聞えてきて残念さがにじむように聞えた
「田所真一」はカップに口を付けようとした。

『おい!!真一君 新しい指令が伝達された』
と先までの落ち込みようは何だったんだ~と思う位に弾んだ声を

掛けられ逆に動揺してしまう「田所真一」に更に追い討ちを掛ける
言葉が「渡辺達司」の口から発声られたのであった。

『コードネームは・・湯ば~ばさんを捜せ』
と発するや否や「渡辺達司」は無理やり残り少ないタバコを灰皿に

押し付けて乱れた髪も整える間もなく足早に室内を抜けドアノブに
手をかけて振り向くことなく言った。

『真一君、コーヒーの飲み過ぎは身体に悪いよ!!』
言われた「田所真一」であったがコードネームの方に気をとられ

『ユバ~バサンヲサガセ』と復唱していたが何か呪文を唱える感覚であった。

コードネーム・ユバ~バサンヲサガセ
は、極東アジアの緊張緩和を迎える「ピョンヤンの春」に繋がる

僅かな一歩になることを、その時は知らなかった要人保護課の二人だった。

--つづく--

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◆2003年11月22日 9:00◆巌門駐在所

駐在所の電話の着信音が鳴った。

定年まで後、幾年の「高田外冶」(たかだ そとじ)にとって二度目の初赴任地は
生まれ故郷に近い駐在所勤務は都落ちの寂しさよりも嬉しさが勝った。

勇壮な秋祭りを催す地区と大漁旗を掲げた漁船が係留する活気ある港、
観光客も訪れる景勝地巌門も管轄下のため

何かと忙しく勤務する「高田外冶」は新任の歳若い本部長が行幸に訪れる
機会にも恵まれての晴れがましさもあり電話の着信音が鳴っても心踊った。

受話器の耳元からは困りかけた感を匂わす病院事務長「塩谷一夫」
(しおたに かずお)の話が長話になりそうなので途中で折った「高田外冶」は

『今すぐ、そっちに行くから細かい事は、その時やから待っとらな』

病院事務長「塩谷一夫」とは磯釣り仲間で幾度と非番時の夜間に連れ立って
日本海へ小船で繰り出した時でも絶えず喋り声を発し

愉快でもあったが時として雑音も発し気分を害すこともあった「高田外冶」だったが
聞き役に徹する事も多々あって先程の病院事務長「塩谷一夫」の要件を反芻しながら
パトカーのハンドルを握っていた。


『駐在さん、今、気になる患者が運ばれて来てな』
『おう、事務長さんか、景気はどうや』

互いに氏名を名乗らなくても分る間柄なためか肩肘張らない会話となっていた。
『季節柄か入院する患者が多くてな空ベッドを無理やり作って奇麗な娘を入院させたがや』

『それで何か問題でも起こしたんか』
『ほれ、駐在さんも知っている多田が早朝に巌門で倒れていた娘を運んで来たんや』

『ほお、多田さんがか』

これまた幼馴染の名前を久しぶりに聞いた。娘の恵子さんの行方不明者届が出てから
一緒に心当たりを捜したが手掛かりも掴むことは出来きず
「高田外冶」は慰め役にもなっていた。

『最初は帰ってきた娘さんを連れて来たのかと思ったんだが』
『違うのだったら、誰やろ』
『駐在さん、ワシは何時の間にコレが、それにな』

声からでも受話器の向うで事務長が小指を立てている姿を想像できた「高田外冶」だった。


今の時季、巌門や「ヤセの断崖」に来る者の中には訳有りもと、予断を持つつもりもないが
駐在所勤務としての勘もあった。

--つづく--

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◆2004年3月某日◆能登地区病院

「多田清吾」は病室のベッドに横たわりながら数ヶ月前の出来事が慌ただしく展開したことで
『事実は小説よりも奇なり』かと呟いて手に取った今年一月の地方紙「北陸毎朝日日新聞」社会面能登欄

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タイトルに続いて記事には記憶を失った女性が周囲の温かい励ましと援助により
能登地区病院の売店で働き、日曜日には「花嫁のれん」の製作場で下仕事をし

記憶の回復を待っている記事の左側 花嫁のれん を横に微笑む女性の姿が

掲載されているのを、今日までに何回読み直したかと思い目を閉じ昨年11月に
女性と出会った、その後の経緯を反芻していた。



病院事務長「塩谷一夫」は応接室に入ってきた駐在警察官「高田外冶」に再度、説明し
今後の件について強引とも取れる話の進め方だと、横に座った「清吾」は思い
「高田外冶」の出方を待っていた。

「清吾」の思いを知ってか知らずか病院事務長「塩谷一夫」は
『ほんで、女性の身元引受人は、何かの縁の清吾さん、あんたに、たのむちゃ
 わしは、身元保証人になって仕事なら病院の売店に働いてもらってもいいしな』

「清吾」は、たまりかねて口を出した
『事務長さん、まだ女性に聞きもせんで いいがんか、早すぎるわ』

『良いか悪いか、清吾さん、考えてみ~、自分が誰か分からない女性に今後の身の振り方を
 決めろと言うがか、せっしょうやろ~』

病院事務長「塩谷一夫」は勢いづいて
『住む所は幸い、病院の職員寮に空き部屋があるしな』

と手に持っている扇子を扇いで言い
『で、これで、どうやろ駐在さん』

病室で妙齢の女性を現認して応接室に戻ってきた駐在警察官「高田外冶」は
事件性も無いと判断し町の福祉事務所にも相談すること、

そして、暫くは女性の住居と身辺を共に気に掛ける事を決めて腰を上げた。

駐在警察官「高田外冶」を見送った病院事務長「塩谷一夫」は
『清吾さん、ほんなら、もう一度、ベッピンさん、の病室に戻って話したことを言いに行かんか』

そして、翌日以降は病院事務長に半ば強引に連れ回される様にして行政等へ相談に日参していた
「多田清吾」は「これも何かの縁や」と今回は意識して胸の内で呟いていた。

記憶が戻らないまま全快した女性は病院事務長の積極的な「働きかけ」で病院の売店に立ち
愛想良く仕事に励んでいるが、仕事以外では口数が少なく「多田清吾」とも話す内容が限られていた。




◆和倉温泉 旅館内の休憩所◆

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波の花と共に来た女性 巌門で保護 私を知りませんか のタイトルに注目した男が居る。

番組制作プロデューサー「真木猛」(まき たけし)だった。
他にもCMディレクターとして数々の仕事をこなし

CMに起用した女性が今では数々の映画やテレビドラマに
出演するほどの女優に大成させたことで業界内では

「マキに磨かれれば神木に変わる」とも揶揄されるほどのヤリ手と評判だった。

「真木猛」他のロケ隊は今年四月公開のドラマで能登半島ロケシーンのため滞在しており
撮影も終盤を迎え、数日後の打ち上げも此の地と決められたスケジュールの中、

「真木猛」はエキストラとは一線を画す役、といってもクレジットの無い端役には違いないが
話題性と美貌にも惹かれ記憶を失った女性・通称「圭子」を登場させるため彼女の身元引受人や

身元保証人に話をつけ、出演を渋る「圭子」には「自然体で」と何とか口説き落としていた。



『多田さん、こんにちは』
掛け声の下、女性が玄関戸を開けた。

『おお~圭子さん、か入りまっし』
声を聞くだけで分かった「清吾」は居間から玄関へ向かった。

『お世話下さり申し訳ありませんが 私 東京に行きます』
「圭子」の言葉は意外に思わなかった「清吾」だった。

やはりテレビのドラマが縁で東京に行ってしまうのかと予想が当たっていた。

東京行きを切り出されてからは、今度は渋る病院事務長「塩谷一夫」の身体を押すようにして
身支度と行政や制作プロデューサー「真木猛」との連絡に日々を過ごすことになり、

『清吾さん、あんた本当に人がいいな、何を企んでいるか分からない男に圭子さん、を盗られるんやぞ』
言葉尻は、かぼそく聞こえた病院事務長「塩谷一夫」は意気消沈するかのように

『わしは、反対や』
扇子の扇ぎも弱々しかった。

でも、これが覆る訳はない と「清吾」は

『今度も決めたのは圭子さん、やぞ』
(恵子の好きなようにしたら良い)

「清吾」は恵子とダブらせて圭子の活躍を願っていた。

三月に入って未だ記憶が戻らない女性「圭子」の旅立ちを待っていたかのように
今度は「清吾」が体調不良で診察してもらうと内臓(すい臓)疾患で入院することになった。



『夕食ですよ』
看護師の声で「清吾」は圭子と出会い、その後の経緯の反芻から目覚めた。

--つづく--

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◆2004年8月某日◆日本テレビタワー 

台本 タイトル「サスペンス 社会保険労務士 音川達郎事件簿」
スタジオ(S1) <セット>衆院 社会厚生労働委員会

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<シーン#1>参考人証言
//---------シーン#1 スタート-----------------
// ロールバック映像の上に文字スーパー タイトル画面を5秒間表示、BGMスタート
// スタジオセットに切り替え。委員長のアップ、カメラワーク適宜

委員長役『これより委員会を開会いたします。
国民年金制度広報活動の在り方について参与人・政府当局質疑に先立ち
A君から発言を求められておりますので、これを許します。』
// 質疑席へ、カメラ、ターン

A君役 『民自党・国民連合のAです。
(女優)参考人にお尋ねいたします。広報活動の影響度が高く知名度もありTVCMや
ポスターによる啓蒙を期待して政府広報に起用されたと事務方より事前説明を
受けておりますが参考人は国民年金保険料未納付でしたが如何思われるのか。』
// 参考人席へ、カメラ、ターン  女優のアップ、カメラワーク適宜

女優役 立ち上がり 右手により厚労大臣を指し示す
『私は女優よ!! (年金受取額)当てにしていないわ!!』
// スタジオセット全景に切り替え。カメラワーク適宜
// 委員席、傍聴人席より ざわめき。カメラワーク適宜
// 委員長のアップ、カメラワーク適宜

委員長役 『静粛に!! (女優)参考人、発言を続けて下さい』
// 参考人席へ、カメラ、ターン  女優のアップ、カメラワーク適宜

女優役 着席して腕組み
『台本どおりのセリフを言ったまでよ。演じたのよ』
// 参考人席へ、カメラ、ターン  所属事務所社長のアップ、カメラワーク適宜

社長役 動揺を隠し切れず 委員長へ発言を求める挙手
// 委員長がA君役に発言を指名する アップ、カメラワーク適宜

A君役 『それでは(社長)参考人に所属事務所としての対応をお尋ねいたします。』
// 参考人席へ、カメラ、ターン  所属事務所社長のアップ、カメラワーク適宜

社長役 『今回の件につきましては当事務所の年金保険についての把握ミスのため
私の管理監督責任が問われても致し方ありません。』
// スタジオセットに切り替え。首相のアップ、カメラワーク適宜

社長役の発言が聞える
『社員にしておけばと反省しております。』

首相役 顔を傾け ゆるむ
// シーン#1 ブラックアウト

スタジオ(S2) <セット>社会保険労務士 音川達郎 事務所

<シーン#2>音川達郎回想
//---------シーン#2 スタート-----------------
// スタジオセットに切り替え。音川のアップ、カメラワーク適宜

音川役 ソファーに座って国会参考人中継を見ていたが
首相役の顔を傾け ゆるむ姿を見てTVリモコンでTV電源OFF

『自分の選挙公約破っても大したことはないと発言した人よりも
芯の通った発言をする女優さんだな』

事務所事務員 立花さつき に声をかける
// 立花のアップ、カメラワーク適宜

立花役 『遡って納付できた2年分を直ぐに納めたそうよ』
// 電話着信音、カメラワーク適宜



『はい カット!!』
頷く撮影監督の姿に安堵した圭子は監督とスタッフに挨拶と会釈をして主演者の後に続いて
スタジオ(S2)を後にして衣装替えをするために廊下に出ると

『圭子ちゃん 良かったよ グッドね!』
日焼けした顎鬚姿の「真木猛」から声が掛かった

そして圭子の耳元で
『圭子ちゃん 今夜の約束 守ってよ』

言い終わるや了解を確認することなく振り向いて廊下の遥か奥のスタジオ(S1)から出てきた
女優に向って脱兎のごとく走り去る「真木猛」からは約束事の念押しだった。

約束事とは東京タワーと夜景が臨めるホテルのレストランでの二人だけの会食の件だった。

今、東京で頼れる「真木猛」を利用して所属事務所を紹介され 更には圭子の後援会名誉会長で
法務大臣経験者の口添えにより「戸籍」新設の申請中で所属事務所社長が身元保証人となっていた。

そして既に芸名「岬 朱音」(みさき あかね)として女優デビューよりも先にCM起用されていたが
まだ、記憶喪失の ふり をする圭子であった。

任務遂行のためには「真木猛」との会食の後の大人の情事を理解していた圭子は
「身も心も首領様と党に忠誠を捧げる」と念じながらも廊下で擦れ違う撮影関係者達に
笑顔で挨拶と会釈をしながら足早に更衣室へ向って行った。


落ちこぼれ要人保護課員シリーズ「赤いコート姿の女性」編

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◆1999年冬◆北朝鮮 狼林山脈

寒風舞う狼林山脈の麓に招待所を模した建屋がある 1階の部屋の居住者は
第88軍団 工作1課 特殊小組 女性工作員「オ・ミファ」は明日からの雪中浸透訓練に備えて 

消灯し早めの就寝に就こうとしていたが隣室の「李 白梅」からの部屋の明かりが漏れて
「オ・ミファ」の部屋のカーテン越しに薄明かりとなって映えている。

ピョンヤン万寿台に建つ首領様が導き指し示された お姿を思い浮かべ眠りにつく「オ・ミファ」は

「日本浸透計画」の工作者選抜は一人だけだと入所日に担当指導員から告げられていた。

-第一部 完-

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落ちこぼれ要人保護課員シリーズ「赤いコート姿の女性」編

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◆2004年8月某日 11:00◆金沢・丸の内 南分室

「先輩!! 岬 朱音(みさき あかね)出てますよ」
田所真一は清涼飲料水のテレビCMで清々しく映る姿で駆ける彼女を見詰めて

「先輩 彼女なにか日本人受けする顔立ちですね 秋のサスペンスドラマで女優デビューとか」
渡辺達司は会話していた電話機の受話器を置くと

「真一君 そりゃ 岬 朱音(みさき あかね) 日本人だろう 言葉の使い方が間違ってないか」
田所真一は何気なく発した言葉で 渡辺達司の切り返しを受けて不思議な感触を持った。

渡辺達司はタバコの火を灰皿に押しつぶすと紫煙漂う部屋を見詰めて
「真一君 南山(ナムサン) の勤める警備会社に一緒に向かってくれないか」

◆2004年8月某日 11:30◆金沢・警備会社

「南山(ナムサン) 民間人になられた感想は如何ですか 」
「おい こらっ お前は相変わらずの ご挨拶だな それより警部任用試験受かったんか」

要人保護課「渡辺達司」よりナムサンと呼びかけられたのは以前の上司だった「南山武雄」で
春に定年退官し地元の警備会社に再就職し病院の警備隊長の肩書きを貰い派遣されていたが
今日は警備会社に詰めていると事前にやり取りがあって要人保護課「田所真一」と一緒に訪ねていた。

「受かるも何も 所属長の若様(キャリア組の警備課長)から推薦も頂けないしね」
県警本部の課長級では若手キャリア組みは刑事部捜査二課長と警備部警備課長の指定席で

彼らは警察庁(サッチョウ)詰めから初の赴任先として着任し二年程の勤務で警察庁に
戻されることを念頭に入れていたので彼らが受ける人事考課で部下が減点を起こさぬよう
気に掛けるため警備課長からすると「渡辺達司」は要注意人物と映っていた。

「ほう そうか 警備課長も見る目があるな」
南山武雄は日焼けした顔を傾け笑った。

「南山(ナムサン) それはないでしょう」
渡辺達司は言いながら 南山武雄 の耳に視線をやり

「餃子耳(ぎょうざ みみ)を見たんで お腹減りましたわ 南山(ナムサン) お昼にしましょうか」

渡辺達司は声を掛け挨拶も そこそこに 田所真一と一緒に南山武雄 の行きつけの
定食屋へ捜査車両に民間人となった 南山武雄 を乗せて 田所真一 の運転で向かった。

警備会社に戻る車内で本題の「宇出津(うしつ)事件(1977年9月 日本人警備員が拉致)」で
当時の捜査担当だった警備部公安課「南山武雄」に捜査概要を尋ねていた。

「達司 捜査報告書のとおりや それだけや」
運転する 田所真一 はバックミラー越しに依然と眼光鋭い 南山武雄 の視線が 渡辺達司 に
向けられているのを感じた。

「南山(ナムサン) 仰せの通りで 何度も捜査報告書を読みましたよ」
渡辺達司 は 南山武雄 の視線を受け流し国道を走り去る対向車に視線を向けながら

「なにか 捜査報告書に書けなかった些細な戯言でも いいんですがね 南山(ナムサン) 」
車内の沈黙を破るように今度は 南山武雄 が犀川を流れる川面に視線を向けながら

「達司 巌門の聞き取りで赤いコート姿の女性を見た人が居たんだが捜査対象外として載せなかった」
ポツリと呟く感で聞こえた 田所真一 はバックミラー越しに 南山武雄 見ると

「赤いコート姿の女性 それですわ。真一君 車飛ばして警備会社に御送りして 」
渡辺達司 から大声が発せられ驚いた 田所真一 だったが制限速度は守った。

--つづく--

★フィクションであり、実在の人物組織とは一切関係ありません。

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ジャンル : 小説・文学

(9) 湯○゙~○゙さんを捜せ(仮題)

(1)  (2)  (3)  (4)  (5)  (6)  (7)  (8) から続き


落ちこぼれ要人保護課員シリーズ「赤いコート姿の女性」編

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◆2004年8月某日 18:00◆金沢・丸の内 南分室

南山(ナムサン)こと「南山武雄」が勤める警備会社から戻って来ると 渡辺達司 は珍しく
田所真一 に声を掛けて今までの特別任務で分かりかけて来た事項を整理し 田所真一 の

考えに補填しながら「特別任務報告書」に今日の日付を書き込んだ 渡辺達司 は
「特別任務報告書」を 田所真一 に渡し明日にでも本部長の所に報告を兼ねた面会の段取りを
電話で済ますと日が落ちず明るい光が差し込む窓辺に寄ってタバコを取り出さずいつの間にか

持っていた清涼飲料のキャップを捻り炭酸が弾ける音がした
「真一君 やっぱり ぬるい炭酸水は美味しくないな」

「特別任務報告書」に視線を落としていた 田所真一 は
「先輩 そりゃそうですよ 子供でも分かっていることを言わないで下さいよ」

「そうなんだよ日本では冷たいビールが当たり前だが世界では ぬるいビールを飲む習慣も」
言い終わらないうちに 渡辺達司 は飲みかけの清涼飲料のペットボトルを持ちながら足早に
室内を抜けドアノブに手をかけて振り向くことなく言った。

「真一君、明日はネクタイ・夏服着用で本部長面会室控えに8:30集合 報告書忘れるなよ」
言われた 田所真一 であったが

「先輩 たしか ノー ネクタイ週間 じゃなかったですかね」
渡辺達司 はノー ネクタイ週間の問い掛けに反応することなく部屋から去って行った。

田所真一 は珍しく無反応の 渡辺達司 だったので 少し気になったが「特別任務報告書」の
方に視線を戻すと「特別任務報告書」にはタイトル「コードネーム・ユバ~バサンヲサガセ」

との文字が記載されているがコードネームが内容の体を現しているのではなくコードネームのみ、
それと所轄署経由で報告された巌門で保護された女性の件が特別任務となって巌門駐在所の巡査部長

と面談し聞き取りと現地の確認も行なったがコードネームと巌門で保護された女性の件が
コードネームの解明と一連で関係性があるのか ないのかも現時点では判明せずと

「特別任務報告書」に記載されていた。

コードネーム・ユバ~バサンヲサガセ」は意味の無い文字の羅列なのかもと 田所真一 は思い

素直に見ればユバ~バサンはユバ~バ+サンで人名とすればユバ~バサン=巌門で保護された
女性を探せ となり既に見つかっている。そう 渡辺達司 が飲んでヌルイと言った清涼飲料の

CM 出演している「岬 朱音」がユバ~バサンとなる。

「特別任務報告書」に添付されている「北陸毎朝日日新聞」に掲載された身元不詳の女性写真を
見ながら「岬 朱音」の姿を思い浮かべた。

そもそも要人保護課は閑職とされて本来の職務の他に「特別任務」を仰せられて解決の糸口を
見付け出して来たら刑事部や所属する警備部の捜査官達に美味しい手柄を立てられる姿を見る

と泰然自若と振舞う 渡辺達司 の姿に疑問を感じる事もある 田所真一 であった。

さらに今回は内閣情報室から命ぜられた件を本部長から「特別任務」として命ぜられていた。

--つづく--

★フィクションであり、実在の人物組織とは一切関係ありません。

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(10 ) 湯○゙~○゙さんを捜せ(仮題)

(9) から続き


落ちこぼれ要人保護課員シリーズ「赤いコート姿の女性」編

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◆2004年8月下旬 8:20◆金沢・鞍月 県警本部

田所真一 は県警独身寮から徒歩とバスを乗り継いで県警本部庁舎内で本部長面会室控え室
へ向かうためエレベーター前に来ると丁度降りて来たエレベーターのドアが開き

パンフレットを胸まで抱えた制服姿の女性が出て来て危うく ぶつかりそうになった。
「あ おはようございます 田所さん この前は お疲れ様でした」

「おっと 松本さん じゃないですか これから どこに」



松本 妙子(まつもと たえこ)とは「初任科生」と警察学校で呼ばれる警察官採用同期生で
年齢は「田所真一」が四歳年上であり「初任科短期生」として九月卒業(長期生は翌年一月)し 
ていたが旧盆を利用して何とか勤務のやり繰りをして初任科同期生の半分には満たなかったが

警察学校卒業から約四年ぶりに同期会を催し旧交を温め直す機会を利用して 松本 妙子 とも
知り合いになっていた。

「初任科生」といっても同期の数も多く女性だった松本とも特に印象として
残っている訳ではなく同期会で警察学校卒業してから改めて存在を知った感じだった。

繁華街の居酒屋の二室を一部屋にしての同期会は久しぶりの再会だった為か話も弾み
年齢相当の青年達の楽しい憩いの場になっていて 場を変えての二次会では 松本 妙子 が
いつしか 田所真一 の傍を離れずに歌声や身振りで他の同期生達と楽しそうな様子だった。

田所真一 は松本も私服や化粧をすると 見違えたな と思っていると心を見透かされたのか
「こら しんいち君 その視線は セ ・ ク ・  ハ ・  ラ ・  セクハラ よ」

天井から吊るされた4色回転灯の照明光を顔に受けた松本の瞳は輝き潤んで見え
ドキッとした  田所真一 は

「しんいち君って・・・。 その声は・・・。 お前は 毛利 蘭(もうり らん) か」
意味が通じたのか 松本は笑い声を上げながら 田所真一 の右肩を何度も触れてきた。

二次会も二時間を経過する内に途中から退席する者も現われ 次の再会を約束して散り始めて
お開きの声を幹事役が上げて 関東一本締め で解散となった。

田所真一 は二次会で最後まで居た独身寮二名と声を掛け合い繁華街のタクシー乗り場に
向かうと 松本も帰宅方向が同じだからと声を掛けられた 田所真一 はタクシー後部シート

中央に座り左側には先にタクシーから降りる 松本 妙子 が座り 助手席に座った同期生が
シートベルトを着けると後部シートの三名も慌ててシートベルトを着ける動作を始めた

「シートベルト せんでも」
言いながら振り返って後部シートを見るタクシー運転手に

「いや 本官は・・・。」
言い止んだ助手席に座った 秋山に

「で・・・。日本国憲法 法令 条例その他の諸法規を忠実に擁護し命令を遵守し」
後部シート右側に座った 川辺が「宣誓」を発して笑ったので タクシー運転手を除いて
車内が笑い声に包まれた。

松本 妙子 が タクシー運転手に降車の声を掛けてドアを開けてもらい 同期生達と
別れの挨拶をしながら身を捻って降りようとした時に松本の右手が伸びて 田所真一 の左手

と触れたのが分かったが何事も無いような素振りで降りて行った。

松本 妙子 が降りた所は山手の高台らしく市内の夜景が輝かしく見えたが街路灯の明かり
だけでは寂しい感がした 田所真一 は

「大丈夫かな・・・。」
呟きが聞こえたのか隣の 川辺からは 松本は柔道の有段者だと教えてもらい

助手席に座った 秋山からは
「知ってるか 松本の一番下の妹が中一なんだが 柔道の県強化選手に指定されたんだって」

初耳の 田所真一 は
「凄いな 将来が楽しみだな ひょっとして オリンピック選手になってメダル獲得かもね」

今 アテネ・オリンピックでは女子柔道も金メダルラッシュだからと景気良く打ち上げた想いだった

タクシー運転手の存在を意識しながら同期生達と取り留めない会話をしながら独身寮へ到着してから
明日の身支度等を整えて眠りに付く 田所真一 には 松本 妙子 が意識する存在になっていた。




「これから 交通企画課と合同の「慰問」に夏休みを利用した交通講話で市内の小学校へ行く準備よ」
春に本部の少年課に異動になっていた 松本 妙子 は「声かけ事案」の発生マップが描かれた

パンフレットの束を見せて笑い掛けて来たが途中で止まり 田所真一 越しに何かを確認したのか
視線を外し会釈して慌てるように車庫へ向かう後姿を視線で追うと

「真一君 ドア閉まるぞ 朝から暑いな エアコン効いているか」
田所真一 に声を掛けたのは 相棒で先輩の 渡辺達司 だった

「先輩 何 言っているんですか まだ朝ですよ それに 経費削減ですから 尚更ですよ」
なぜか 狼狽してしまう 田所真一 だった。

--つづく--

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Author:KIYO♂
旅・乗り物・株・創作小説・愛犬 ◆20160607未だに冬眠のため不定期活動。

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