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(11 ) 湯○゙~○゙さんを捜せ(仮題)

(9) (10) から続き

落ちこぼれ要人保護課員シリーズ「赤いコート姿の女性」編

◆2004年8月下旬 8:30◆金沢・鞍月 県警本部

「おはようさん 暇か」
 田所真一 は面会室控え室のドアが開き掛け声の主は警備一係長 森田行雄 だと分かり慌てて

イスから立ち上がり
「おはようございます」

頭を下げて横目で見ると隣のイスに腰掛て水色の夏服半袖上着の首元を触っている 渡辺達司 が
「暇だったら来ないよ やっぱり ネクタイを絞めないとな 落ち着かないよな 係長」

「先輩 係長が御挨拶しているのに・・・」
「田所 いいって ことよ 渡辺とは 同期だしな それに・・・」

警備一係長 森田行雄 は警部ではあったが 渡辺達司 とは同期生で長年、職務で共に同僚として
捜査し交流がある間柄のため 別に顔色を変えることなく

「渡辺  南山(ナムサン)さん と この前 OB会と警友会の合同総会時に会ったら お前の こと
聞かれたぞ」

「まぁ 暇だったら座ってくれ それで なっんて言ってた」
 渡辺達司 が半袖上着の第一ボタンを留めて正面に座った 森田行雄 を見た。

「南山(ナムサン)さんが 幸子(さちこ)さんの七回忌法要には 今度こそ呼んでくれ とな」

 田所真一 は初めて聞く二人の会話内容に戸惑って成り行きを見守っていると
「じゃ 伝えたからな そして ワシにも声掛けてくれよな 昔の恋敵に」

言い終わるや森田行雄は 渡辺達司 の返事を待つことなく警備課長と入れ替わるように面会室控え室を
出て行き 田所真一 は警備課長に挨拶をし控え室とドア続きの面会室のドアを開けて先頭に警備課長が入り

立ち上がった 渡辺達司 の後に続いて最後にドアを閉めて 田所真一 は面会室で 渡辺達司 の左横に
座って正面に座る警備課長 米沢匡(よねざわ ただし)の前で緊張していた。

頭の中では年齢は三歳年上で、かたや警察庁採用で警視 こちらは巡査長試験に受かった身の本部籍で
平の担当者では違い過ぎると思い沈黙が支配する中で隣の 渡辺達司 を見ると危うく声が出そうになり
言葉を飲み込んだ。

「ここは 灰皿も置かれていないのか 朝から一服も出来ないと・・・」
沈黙を破ると 渡辺達司 が座ったテーブルから離れて部屋の片隅のサイドボード内に灰皿を見つけて

「課長 九谷焼(くたにやき)の灰皿 これは高級品じゃないですか」
「渡辺さん せっかくですが 私は嫌煙なので それに今からでは遅いですよ 早速レク 初めて下さい」

七三分の頭髪から微かにポマード香を感じた 田所真一 は真似はしたくないと正直に思った。
警備課長に言われて一服を諦めたのか手ぶらで 渡辺達司 が喉元を気にしながらテーブルに戻って来ると

田所真一 は「特別任務報告書」を警備課長にも配布し記載内容を話し 要所要所に 渡辺達司 が説明を
補足し報告を進める手助けを感じていた。

時折 警備課長が首を傾げ また 右手で銀縁メガネに触れたりする仕草を 田所真一 は見たが
特に不満表明を発することなく警備課長が聞き終えたので安堵し

「以上が概要報告となります」
田所真一 の締めの発言が終わると

「課長 ここの 九谷焼(くたにやき)の灰皿 分室で借りても良いですか」
田所真一 は警備課長の右こめかみ の血管が浮き上がったようにも見えた。




巨大組織になるほど組織防衛対策が図られている。 その顕著な系統が警察では「警備・公安」部門とも
言われ時代に逆行するかのように情報の共有化は図られず その代わり情報一元化により日々 津津浦浦の

全国の警備・公安担当者からの裏情報・裏報告が各担当者間や所属長抜きで さらに本部長をも感知せず
迂回する集約システムが構築されて元締めと外部素人の公安マニアやマスコミから言われているのが今の

警備・公安のエース格 石川利朗 理事官(警視正)は通称「チヨダ」裏理事官として警察庁組織図から名前が
抹消された存在で秘匿とされるが厳密には公務員(サラリーマン)として俸給を支給されているため給与源泉徴収票(支払報告書)

により関係当局より捕捉はできないこともないが また捕捉する動機もないのが現状となっている。



田所真一 は警備課長へのレクチャーに続いて初めて入った本部長執務室の応接テーブルに座り警備課長や
渡辺達司 の補足を取り入れて「特別任務報告書」の概要報告を本部長 本間秋雄 (警視長)へ言い終えると

特別に本部長からの訓示もなく あっけない幕切れに逆に拍子抜けの感がした。

これも 組織防衛策だと 田所真一 は思った。組織の節々を抜かし情報の分断を行い 所謂「芋づる式」を
排除し責任の所在も限定的にするためである。今回は所属系統からは「警備部長」が特別任務の責任からは
外されていた。

本部長執務室から出て面会室に戻って来ると警備課長から東京への出張 所謂「マルタイ警備(隠)」が命ぜられ足早に警備課長が面会室から出て行くと 渡辺達司 が目敏く見つけた九谷焼の灰皿を持って来た。

「先輩 分室に灰皿の持ち出し禁止ですよ」
「真一君 一服していくよ あいつら できてるな」

田所真一 は本部長と警備課長のみで共有している情報があるようだと薄々の感もあったが
渡辺達司 も同様だったと分かり少しは胸のモヤモヤ感も晴れたが「駒使い」には変わりなく警備対象者に

気付かれる事なく身辺警備を実施するのは心労困憊する。今回も業務として割り切るが
大きな組織の手の平で踊らされていると思った。
 

「真一君 当日は小松空港派出所に居るから それと戻る前に警務部に行って旅費の前払い請求して来てよ」
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--つづく--

★フィクションであり、実在の人物組織とは一切関係ありません。

テーマ : オリジナル小説
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サスペンス 社会保険労務士 音川達郎事件簿

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◆社会保険労務士 音川達郎 事務所◆

私 立花さつき は就職氷河期に埋もれてしまい春に女子大を卒業すると 大手商社や金融機関への
就職を諦め 手に職を付けてとの母親の助言もあって母方の叔父さんの配偶者(嫁)の兄の配偶者(嫁)の

兄が社会保険労務士事務所を開設し最近まで勤めていた事務所事務員さんが辞めたとのことで
縁伝いに聞いた母親から紹介され 社会保険労務士補助業務を行うためアルバイト感覚で手伝うことに。

事務所代表の音川達郎さん は都内大手の経営労務事務所に長年勤めて代表が御子息に世代交代する時に
所謂のれん分として担当だった契約先付きで社会保険労務士事務所開設に至ったと面談時に聞かされて

遠い親戚みたいものだから 手伝ってと言われたのよ。

私は 社会保険労務士資格にも興味があったので承諾したのよね
それと代表が「シャーロック・ホームズ」ファンだった ことが分かったのよ 素敵でしょう。

でも代表の容姿はシャーロック・ホームズ役(ジェレミー・ブレット)よりは私立探偵・毛利小五郎似かも
と言うと 私は 毛利蘭 になってしまうかもね  あ・・・ 空手は出来ないわよ。


社会保険労務士補助業務の話に戻るわね
大手だと社員も多くて給与・人事担当者が業務として労働保険・社会保険に関する書類作成・提出を

行っているんだけど中小企業だと社員も少なくて給与計算業務含めてアウトソーシング(外注依頼)で
社会保険労務士事務所に仕事が来るのよね

他人が貰う給与の計算が私のバイト代に変わるわけよ。

今日は これから代表と一緒に契約先に出かける予定で 外国人技能実習生の助成金申請についての件
とかなんだけど 私は会社内を案内して頂くつもりなの 専務がイケメンの御曹司なのよ 玉の輿・・・。

そうそう制服がないため暑いし格子柄パンツ レモンイエローブラウスにローヒールの私服なのよね。

勤めた縁で国民年金保険料は所得額からは全額免除対象になるけど納付しているの 正確には父親が
それと所得税と健康保険は扶養親族として父親に お世話になっているのよね。

父親は早く嫁に行って欲しいようだけどね では 行って来ます 契約先にね。


--つづく--

★フィクションであり、実在の人物組織とは一切関係ありません。

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サスペンス 社会保険労務士 音川達郎事件簿

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◆金属加工会社 倉庫◆

訪問先社長と音川代表を残して事務所を出て訪問先専務の後に続いて
倉庫に踏み出した瞬間だった ボン!! と倉庫内から何かが弾けた音がすると

同時に発した閃光が火柱となって薄暗い倉庫内を照らし出した。

轟音と共に猛烈な風となって全身を包むのを感じ
倉庫内の通路右側に置かれた空積みパレットが揺れて

反射的に手を前に突き出し専務の背中を押した さつき は

空積みパレットが通路側に居た 自分 に崩れ落ちて来るのを感じ
無意識に側転してから前方回転の飛躍をして通路左側の空白場所に

既に座り込んで避難している格好となっている訪問先専務の足元に転がり込んでいた。 

通路に崩れ落ちて来た空積みパレットから倉庫の開け放たれた
ドアの外から陽射しで粉塵が舞っているのを さつき は見た。




想定外の事態が発生したと 撮影スタッフ達が認識するまでに
暫しの時を要したが 撮影監督の問い掛けに反応した撮影スタッフ達が
慌てて倉庫内に走り込んで行った。

「岬さん 凄いよ 俊敏だったね 昔は体操選手だったのかも」
専務役俳優は建物の日陰に設置された椅子に座りながら救急箱から

取り出した絆創膏を足首と膝などの擦りむいた箇所に貼っていた。

圭子は気丈にするよりも怯える微力な女性として振舞いながら
何が起きたのか分からず無意識に専務役俳優の背中を押し怪我

させてしまい恐縮して何度も頭を下げた。

「岬さん の御蔭で助かった様だから 感謝するのは 俺の方だよ」
顔に埃が被ってしまい濡れタオルで顔を拭いた専務役俳優から言われると


「何か 火事場の・・・」
言葉の使い方が間違っていると圭子は途中で止めて笑みを浮かべ
再度 会釈してロケバス内で着替えと化粧直しのため向かった。


スタッフから聞くところによると 火柱となる火薬量を多目に調合
されていたようで火災までには行かずとも内壁が焦げてしまい消防署

にも説明に向かったり また 空積みパレットの崩れた件は
原因を調べていると打ち明けられ 圭子はスタッフからも

迷惑をお掛けしたと謝罪されていた。

圭子はロケバスから戻り出演者達と今後の成り行きを見守っていた。

結局 今日のロケは一旦中止となり後日 撮り直しされることになり
撮影スタッフ達が慌ただしく撤収準備を行っている所を遠巻きに

見学している外国人訓練生役エキストラ達の中に圭子は見覚えのある顔を発見し
なぜ 日本に居る と驚き身構えてしまった。


-第二部 完-


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-第三部-  あらたに記事連載 開始しました。

落ちこぼれ要人保護課員シリーズ「赤いコート姿の女性」編

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◆東京都内 隅田川沿い◆

「先輩 彼女 なかなか品行方正で休暇は部屋に篭ったまま マルタイ警備(隠)も 一ヶ月経ちましたね」
「真一君 それはそうだ 清純派女優さんだから ファンの夢を壊さないで欲しいよ」

「あれ 先輩 いつから 岬朱音(みさき あかね)ちゃん のファンになったんですか」
「真一君 それは ぬるい清涼飲料水を飲んでレシートを貯めてゴビ砂漠緑化事業に貢献するためだよ」

「そうなんですか 先輩 目の付け所が違いますね」
「真一君 も目の付け所が違うと分ったのは 彼女が日本人受けすると言った時だよ」

渡辺達司と田所真一は石川県警察本部長直轄の要人保護課で二人しかいない相棒だった。

警視庁の限られ幹部には県警察本部長より捜査派遣を伝える仁義は切っていたが当然、
末端の警官までには知らされていないため職務質問を受けないよう行動には配慮していたし

警察手帳を敢えて提示しないようにしていた。

岬朱音が住むマンションの玄関と部屋が臨める位置を確保するため奔走した結果 双眼鏡で
確認できるビルの一部屋を短期で借りることが出来たが捜査の為と明かしていた。 

ブラインドを下ろした隙間から窓ガラス越しに双眼鏡を使ってマンションの玄関方面を向けた田所真一は
「先輩 彼女 平日の休暇ですが動きますかね もう夕方ですよ 弁当買ってきますか」

「真一君 じゃ頼むよ 双眼鏡くれるか」
渡辺達司は広げた都内地図の箇所にサインペンで色塗りする作業を止めて右手を伸ばした。


圭子はドラマ出演している社会保険労務士 音川達郎事件簿の金属加工会社 倉庫シーン以降
複数の異なった視線が注がれるのを気配として感じ一呼吸置いて姿を探すが見つけられないでいる。

倉庫シーンでの爆破火災は後日に撮り直された場に外国人訓練生役の中に 李白梅 の姿は見かけず

見間違いかと思ったが 顔付きや姿から訓練当時の面影も感じられた圭子には彼女が姿を見せた動機を
探ると復讐や妬みからと推測もしていたところ 後日に圭子の住むマンションの郵便ポストに封書が置かれ

圭子宛なのか訓練当時の名を漢字変換して書かれていたが差出人の名は書かれていなかった。

彼女に居場所まで分ってしまったかと驚いたが部屋まで封書を持ち帰り封書の中身を取り出しみると
やはり 李白梅 から届けられた郵便消印の無い封書だった。

ハングルで書かれた内容は選抜に漏れた以降はピョンヤン近郊の部隊に転属となり思想点検となる
日常生活講話を受ける予定場所へ出頭要請がなされると今後の保身の為に国境の豆満江を密かに渡り

対岸の朝鮮族自治州で身を潜めて朝鮮半島南部に向かわず日本へ脱出して来たのは彼女のプライドを傷付けた
事に対する復讐云々が書かれて 彼女の祖父は漢族だが幼少時に朝鮮族の養父と共に抗日パルチザン部隊に

入り転戦し解放後に朝鮮半島北部に進駐し朝鮮族の女性と世帯を持ち住み着くと出身成分では
抗日パルチザンの戦歴から核心層に位置付けられピョンヤン市内で暮らしていたが1990年代の

出身成分再点検により純粋血統ではないとして彼女が成長する頃には食料物資の配給ランクも
低下し大学推薦も難しくなり部隊へ配属された経緯も書かれていたが当然 圭子にとって彼女の

身の上は初めて知ったことだった いわゆる競争相手とは社会的生命体を賭けていた事になり 
今回の任務遂行に当たって障害物は除去が鉄則と悟っている為に彼女から呼び出された

日時を確認すると一時の動揺も収まり打開策を検討することにした。


「先輩 !! 彼女 出てきました !!」
叫び声と同時に渡辺達司は食べかけの弁当を置き立ち上がって素早く身を動かし玄関ドアの取っ手を握ると

「真一君 弁当食べずとも 傘 忘れるなよ」


圭子は大通りに出てタクシーを停止させると隅田川沿いの吾妻橋を目途にして降りて観光遊覧船乗り場
付近まで来ていた。夕方からの雨も本降りの中、雷門通りから来た日本人観光客らしき集団も足早に
乗船口へ向かう為に通り過ぎて行く。

その時 日本人観光客らしき集団の先頭から悲鳴が上がると共に隅田川から鈍い音が聞こえたと
圭子へも伝わって来て付近は事態対処の為に騒然と化していた。

「真一君 マルタイ警備(隠) 付近点検」

薄暗くなり雨で視界も悪い中 渡辺達司と田所真一は そして圭子の視線からも遠ざかる後姿を
見当付けたが各々動かなかった。

--つづく--

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プロフィール

KIYO♂

Author:KIYO♂
旅 乗り物 株主優待 創作小説  愛犬 ポメ吉 20210714 14歳の誕生日を迎えることなく旅立ってしまう◆20160607未だに冬眠のため不定期活動。

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